キナバル登山記⑥ 恐怖の下山

ツルゲネフ

2011年09月02日 20:36

そんなわけで、登頂してすぐに下山を開始。
たった4000メートルでこんななんて、2倍高さのあるヒマラヤの壁登攀とかどんな世界なんでしょ・・。

頂上では残念ながら、霧のため素晴らしい展望は見られなかった。
しかし、母とともに頂上に立てたことでもう十分。

下るごとに気温が低下していくのがわかる。
頂上で欲したもの、それは暖かさ。
高度が上がりおてんとさまに近づいているはずなのに、なぜ高山はこんなにも寒いのか・・と。

夜が明けてあたりも明るくなり、下りながら、自分が登ってきた道がどんなだったか、冷静に見れるようになってから、私の恐怖の下山が始まった。
登りでは写真を全く撮れなかったので、下山の際に振り返り振り返り写真を撮った。




頂上付近。
こんなけっこうにけっこう急な岩を登ってきたのだ。



見事な花崗岩。
乾いていれば、滑りにくい岩なのだが、濡れていると・・・やばい。
こんなロープだけの岩を歩き続ける。 それにしても余裕綽々のボビー。




軽くオーバーハング・・・
ぎゃー!助けて、YABUくん!!



下から上を見上げたところ。
わかるかい、このものすごい急斜面、急勾配!
あたしこれ、どうやって昨日登ったんだ!? しかも何時間も。

命綱なんてない。この滑るロープと滑る足元、手を離したら墜落死。
こんなに命の危機を感じたことはなかった。
何度も足をすべらせ、「邦人女性キナバル山で墜落死」と新聞の見出しが頭をよぎった・・・

何より、私は歩道橋から下をのぞいても足がブルっちゃうほどの高所恐怖症だったことを思い出した。
高所恐怖症にこの下山はきつい・・・まじで涙目。
自分が足を滑らせるのも怖いけど、母が滑ってすんでのところでロープにしがみつき、墜落しそうになるのを見るのも辛かった。

登山や壁に慣れたクライマーならこんな易しいところヒョヒョイノヒョイと、口笛吹いて懸垂下降でもしながら降りてくるんだろうが、私は超へっぴり腰で情けないことこの上ない。
考えてみれば、私は富士山一回、あとは里山にちょろっと登ったことがあるだけの超のつく登山初心者なのだ。
突然大きく出過ぎたのではあるまいか・・・




数時間に及ぶ恐怖のロープ・ポイントを通過し、ようやく階段。
ああ、生きてて良かった・・・

台風前の、うねりの激しい海に釣りに行ったときはそれほど怖いと思わなかったけど、今回は生まれて初めて「死ぬのは怖い」と思った。いつ死んでもいいと思いながら、やはり生きたいのだと。
日本でのほほんと日常生活を送っているだけでは絶対に気付かないことだった。

厳しい自然に触れることは、いい気になっている自分を見事に打ち砕いてくれる。
山では、ミスをすれば死につながる。
自分の力量を、自分の精神力を、過大に評価してはいけない・・。自然の中では、謙虚に。それが教訓だ。


下山して山小屋でホット・ティーをすすった時の安堵感。
コップの温もりが、有難かった。


その後、またすぐにジャングルへの下山が始まる。
これがまた長いのだが、頂上での苦しみに比べればなんのその。





ようこそ、太陽の暖かさと、生物の世界へ。ヒデキ感激!



~キナバル登山記⑦へつづく~ 

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